経営組織論

組織の定義

――組織とは――

→ 「二人以上の人々の、意識的に調整された諸活動、諸力の体系」 (Barnard, 1938)

組織について

@ 組織を構成する要素は人間そのものではなく、人間が提供する活動や力である。
→ 組織にとって大事なのは、個人から組織にとって必要な活動を引き出すことであり、つまり、個人への動機付けが重要である
 (どのように優れた能力を持つ個人がいたとしても、それを生かした活動を引き出せないなら組織は失敗)
A 組織を構成する諸活動・諸力は体系(システム)として互いに相互作用を持つ。
→ 組織は、個々の要素に還元できない全体としての特性を持つに至る
ex. 個人個人は善良なのに、組織として反社会的行動をすることがある
→ 組織は、個人の総和以上の成果をあげることができる
but, 組織における相互作用は必ずしもプラスの効果を生むとは限らない。ときには利害の対立、意見の不一致 (conflict) を生み、組織が機能しなくなることもある
B 組織を構成する諸活動は「意識的に調整」されている。
ex. メーカーのエンジン部門は、生産計画が企業内のほかの部門での完成車生産計画と調整されているから、生産すべきエンジンの台数、納期その他について正確に知っている。
一定期間以上、経験を共有した人々からなる集団では、各人の行動が「無意識的・暗黙的調整」によって体系として相互作用を生み出すことがある。 → 非公式組織 (informal organization) = 無意識的に調整される諸活動の体系

組織の概念を理解するための例

道に岩。ABCの三人がそれぞれ自動車に乗って通りかかる。
   ↓
三人の個人的欲求や目的とは独立に、「岩を道からどける」という共通の目的の発生
   ↓
岩を押すタイミングを一致させ、三人の力を同じ向きに同時にあわせる必要(相互作用)
   ↓
岩をどかすために、事前にどの方向に力を作用させるかを打ち合わせる=合図とともに同時に力をあわせなければならない(意識的調整)
   ↓
岩をどかすために、三人が全力で岩を押すという活動の提供(活動・力の提供)
   ↓
目的の達成

組織における経営者、管理者の役割

組織成立の三要素

@ 互いに意見を伝達できる人々がいる(伝達 communication)
A それらの人は行為を貢献しようとする意欲をもっている(貢献 willingness to serve)
B それらの人は共通目的の達成をめざしている(共通目的 common purpose)

→ このようなとき組織は成立する (Barnard, 1938)
→ このようにして形成された組織体系の均衡を維持するのが経営者の役割
 

――意思決定と人間の行動――

組織は人間の行動を構成要素としている
   ↓
組織について考えていくためには、人間の行動をどのように考えるかという仮定が必要である
→ 組織論の前提となる人間の行動→意思決定から見ていく

意思決定の概念

意思決定をするために必要な5つの要素

@ 目標
A 代替的選択肢の集合
B 各代替的選択肢の期待される結果の集合
C 各結果がもたらされる効用の集合
D 意思決定のルール

→ 「最適化」と「満足化」の決定

最適化意思決定

→ 探索プロセスは重要でない
人間は合理的存在、すなわち「経済人」であると考える。
   ⇔
人間の合理性には限界があるという考え方=「経営人」

満足化意思決定

→ 探索プロセスが重要

組織論における人間と組織の意思決定に対する考え方

人間の合理性には限界がある(合理性の限界、限定された合理性=組織論における最も根源的な仮説の一つ)
   ↓
人間の意思決定は基本的に満足化決定で、例外的に最適化決定である
   ↓
組織とは個人の合理性の限界を克服するためにつくられる
   ↓
しかし、組織も合理性の限界を完全には克服できない

 
 

組織均衡論

――組織均衡論とは――

この理論における「均衡」とは、組織がその参加者に対して、継続的な参加を動機づけるのに十分な支払いを整えることに成功していること、すなわち、組織が生存に必要な経営資源の獲得・利用に成功していることを意味する。

均衡論 (Simon, Smithburg and Thompson, 1950)

@ 組織は、組織の参加者と呼ばれる多くの人々の相互に関連した社会的行動の体系である。
A 参加者それぞれは、および参加者の集団それぞれは、組織から誘因を受け、その見返りとして組織に対して貢献を行う。
 
参加者 貢献 誘因
従業員 労働力の提供 賃金や評価などの報酬
資本提供者 資本の提供 配当など
生産手段提供者 生産手段の提供 生産手段への代価
顧客 商品への代価 商品
B それぞれの参加者は、提供される誘因が、行うことを要求されている貢献と、等しいかあるいはより大である場合にだけ組織への参加を続ける。
 
誘因-貢献>0 その組織へ貢献し続ける
誘因-貢献=0 他の組織へ去るかどうか無差別になる
 
本当にその組織を去るかどうかは二つの要素の影響を受ける
@ 移動への願望――個人が不満足であるならこの願望は大きくなる
A 移動の容易さ――どれくらい代替的選択肢がその個人に対して開かれているか
ex. 伝統的な日本的雇用慣行では、他の組織へ移ることが難しい。従って、現在の組織に不満でも、その人はその組織にとどまることになる可能性が高い。 
C 参加者による貢献が、組織が参加者に提供する誘因をつくりだす源泉である。
D 貢献が十分にあって、その貢献を引き出すのに足りるほどの量の誘因を与えられる限りにおいてのみ、組織は存在し続けることが可能。
 
 

――有効性と能率――

組織の有効性 能率 組織における能率
組織の管理者は、有効性と能率をめぐる利害の対立を調整するように意思決定を行う必要がある。→組織における管理過程の本質

 

――環境と組織(オープンシステムとしての組織)――

組織の外部環境への適応(環境適応)

組織の内部と外部をわける、境界の働き (Adams, 1976)

@ 外部のインパクトの中から何が組織にとって好ましいか、好ましくないかを判断して好ましいものだけを取り入れる (filtering)
A 好ましくないものが中に入るのを阻止する (Protecting)
B 好ましくないものがたとえ中に入ってきても、その影響を和らげる (buffering)
C 組織を代表して外部の関係者に支持を求めたり、受け入れやすくする (representing)
D 積極的に交渉したり、取引することもある (transacting)
 
 

――組織構造の概念――

能率と専門性の利益
組織は構造を持つことによって、分断された業務を統合するコストを低くおさえつつ、分業による専門化の利益を大きくすることができる。

 

機械的組織 vs. 有機的組織

コンティンジェンシー理論(条件適合理論、条件理論)
環境学派のコンティンジェンシー理論 ―
                                                      }→ 情報プロセシング・パラダイム
技術学派のコンティンジェンシー理論 ―

環境学派のコンティンジェンシー理論

@ 環境不安定性
A 環境不確実性
B 市場異質性と市場不安定性

Burns & Stalker (1961)

有機的組織はそれぞれ異なる環境で高い業績をあげることができる
Lawrence & Lorsch (1967)
環境不確実性
@ 環境情報の明確性の欠如
A 環境の因果関係の一般的な不確実性 (何が、何を引き起こすかわからない)
B 成果についてのフィードバック情報が入手されるまでの時間幅
分化と統合

技術学派のコンティンジェンシー理論

企業の技術もコンティンジェンシー要因

J. Woodward (1965, 1970)
C. Perrow (1967)

技術が異なれば有効な組織構造も異なる

情報プロセシング・パラダイム

Thompson (1967), Nonaka (1972, 1974), Duncan (1972), Galbraith (1977)

組織と環境とのコンティンジェンシー関係は、環境が要請する情報プロセシングのニーズと組織の情報プロセシング能力との適合、不適合関係から生じる。

機械的管理システムと有機的管理システム

 
機械的管理システム 有機的管理システム
  • 機能的タスクの専門分化・分割
  • 各タスクの抽象性(全体目標や技術と関係が遠い)
  • 直属の上司による各成果の調整
  • 各役割の職務・権限及び方法の明確化
  • 職務・権限・方法が機能的地位の責任に変換される
  • 制御・権限・伝達の階層的構造
  • 階層トップへの知識の集中による階層構造の強化
  • メンバー間の垂直的相互作用(上司―部下)
  • 上司の指示・命令に支配された職務
  • 組織への忠誠と上司への服従の強調
  • 組織内特有の知識・経験・スキルの強調
  • 共通のタスクに対し、異なる知識・経験を基礎とする専門化
  • 各タスクの具体性
  • 横の相互作用の通じた各タスクの調整・再定義
  • 責任を限られた領域に限定しない(責任を他者の責任にしない)
  • 技術的規定を越えたより広い関心へのコミットメント
  • 制御・権限・伝達のネットワーク型構造
  • ネットワーク内での知識の分散、権限、伝達の中心はアドホックに変化
  • より水平的相互作用、異なる地位間の伝達は命令的ではなく指導的
  • 情報提供と助言的内容のコミュニケーション
  • タスクそのものと優れた仕事をしようとする精神へのコミットメント
  • 組織外の専門家集団でも通用する専門能力およびそうした集団への参加の強調

組織の戦略的選択

――組織による環境の戦略的選択――

 

――事業ドメインの選択:戦略決定――

 

――環境の不確実性と組織の情報処理――

環境不確実性―環境の複雑性と変化性の関数
環境の複雑性 単純
環境の複雑性 複雑
環境変化 安定
低 不確実性
低―中 不確実性
  • 要素数は少なく、同質性が高い
  • 各要素は変化しないか、ゆっくり変化する
  • 要素数が多く、類似性は低い
  • 各要素は変化しないか、ゆっくり変化する
環境変化 不安定
高―中 不確実性
高 不確実性
  • 要素数は少なく、同質性が高い
  • 各要素は早く変化し、予測できない
  • 要素数が多く、類似性は低い
  • 各要素は早く変化し、予測できない
複雑性…組織の活動に関連する環境要因の数の多さや、相互の異質性、要素間の相互作用関係
変化性…環境構成要素が一定期間安定しているのか否か、その変化が予測可能なものかそうではないのかを表す

 
 
 

リーダーシップ

――リーダーシップとは――

リーダーシップスタイル

@ 民主型リーダー――高い成果を出す
A 専制型リーダー
B 自由放任型リーダー

リーダーシップスタイル研究

@ ミシガン研究
従業員志向 ⇔ 仕事志向
詳細な指示・部下の失敗に罰――低い業績
A オハイオ研究
構造づくりをし、従業員に対する配慮も高いほうが、業績が高い(Hi-Hi スタイルがよい)

PM理論

集団の機能

リーダーシップ研究の歴史

 
第1期 リーダー特性研究
1900〜1940年代後半
第2期 リーダーシップスタイル研究
1940年代後半〜1960年代後半
第3期 コンティンジェンシー理論研究
1960年代後半〜80年代前半
第4期 変革orカリスマ的リーダーシップ研究
1980年代前半〜現在
 
ユニバーサル コンティンジェンシー
特性
  • 特性理論
  • カリスマ
  • Fiedlerコンティンジェンシーモデル
行動
  • リーダーシップスタイル研究
  • パス・ゴール理論
ユニバーサル…どんな状況においても
コンティンジェンシー…状況によって効果的なリーダーは変わる
リーダーシップスタイル研究…トレーニングしやすい
集団
interacting group 一つの仕事を達成させる サッカー
coacting group 個々が独立して仕事をして、集団として結果を出す 柔道の団体戦
counteracting group 利害が反するメンバーが交渉 車の売買における、買い手と売り手



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