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山田姓についての、くだらない思い出

「山田君、山田さん」というのは、必ず一人くらいは、あなたのクラスにもいた事だろう。もしクラスにいなくても、学年に三人くらいはいたはずである。もしあなたが、「私の学年には、一人も山田姓の人はいなかったわ」と言っても、少なくとも算数の教科書で、「山田君は百円玉を一つ持っています。山田君は一つ三十円のりんごを、何個買うことができるでしょう。おつりはいくらでしょう。」という例題を解いたことがあるはずである。

そう、山田姓っていうのは、佐藤さんや鈴木さんと並んで、日本でもっともポピュラーな名字の一つである。僕自身も、同じクラスに山田がもう二人いたという事を経験した事がある。そして、これは偶然なんだけれども、そのクラスには雄一郎も、もう二人いて、「山田雄一郎」である僕は、なんだか偽物になったような気分になったものである。確か、小学校5年生の時の話。

しかし多いからと言って、「人気のある名字なのよ」と言うのは、かなり無理がある。何故なら、山田っていう名字は実際には人気がないからである。少なくとも僕はそう思う。「なんで山田なんやろう?」って、悩んだものである。もう慣れたけど。

こんな思い出がある。僕が小学生だった頃、毎朝ラジオを流すのが、山田家の習慣になっていた。いつも流すのは、関西の地方番組であった「おはようパーソナリティ、道上洋三です」という、トラ馬鹿がやっていた番組であった。(注 トラ馬鹿とは、阪神タイガースの熱狂的ファンの事を指す。)特別うちの家族が、タイガースのファンであったわけではないんだけれども、なんとなくその番組で毎朝を迎え、朝食を食べ、何度も「六甲おろし」を聞き、そして仕事に、学校に出かけて行くのが山田家の習慣であった。

で、その番組で、ある朝こんな特集をやっていた。
 

トラ馬鹿
若い女の子に聞きました。一番あなたが結婚したくない、相手の名字は何ですか?
 
 
父 重雄
うーん、それはやっぱり、馬場だろう、馬場ぁ。
母 和子
ええ、やっぱり馬場でしょうね。
長女 理恵
馬場だけは嫌だなぁ。
次女 真知子
そんなん、うんこたれみたいやん。
長男 雄一郎
うん、うん。
 
僕達家族は、仲良く口をそろえて、そう言ったものである。ところが・・・
トラ馬鹿 
若い女の子に一番結婚したくない相手の名字を聞いたところ、結果は、「山田」でした!
 
 
山田家
・・・・・・・・・・・・・
 
その時の沈黙といったら、本当に辛かった。こんなつまらん事を僕がいつまでも覚えているのは、その時父親が何となく、寂しそうにしていたのが印象に残ったからだろうか?

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後日補足ちなみに関西では大便、もしくはうんこちゃんの事を「ババ」というのだけれど、これを知っていないとこの文章、おもしろくもなんともないなぁ。それと、「六甲おろし」は阪神タイガースの応援歌です。
1/18/99
1/21/99

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