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アメリカ大使との対話の思い出

ワシントンDCに住んでいると、いわゆる社会的地位のある人に会う機会があったりする。例えばクリントン大統領がアメリカン大学に演説をしに来た事があったし、あのチベットのダライラマだって来た。アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長なんか、僕の家のすぐ近所に住んでいたりするらしい。しかし、実際そんな大物とぺちゃくちゃ話せる機会があるかというと、そんな訳はない。でもただ一回だけ、日本ではかなり有名な人物と話す事が出来るチャンスがあった。斉藤邦彦アメリカ駐在大使である。

僕がアメリカに来たその年、斉藤大使もDCに赴任された。確か以前は外務省次官だったと思う。その新大使をアメリカン大学の学長であるベンジャミン・ラドナーが招待したのだけれども、そのパーティーの席に立命館大学からの生徒も招待されたのだった。AU としては近所に住んでいる日本からの大使と、とりあえずお近づきになっとおこうという考えだったのだろう。ちなみに大使館は少し離れているけれど、大使の住んでいる家から大学までは、本当に目と鼻の距離でしかない。

さてその時の話だけれども、AU の中で一番見渡しのいい綺麗な部屋で、そのイベントはおこなわれた。とりあえずベンジャミンが前に出て挨拶して、それから斉藤大使の挨拶である。それまで僕は日本大使ってのがどんな人か知らなかったので、その時が初めて顔を見たときである。見た感じは優しそうな普通のおじさん、もしくはおじいさんである。ところがやはり只者ではなかった。このおじさん、話がかなりおもしろい。勿論英語でのスピーチなんだけれど、かなりみんなを笑わせていた。

で、話が終わって、立食パーティーのような感じになった。それぞれパンやチーズや、ハムやフルーツなんかを取って、わいわい食べだした。僕も食べていたのだけれど、見ると大使が一人で食べているではないか。「これは話をするチャンスだぞ!」と思って、話しかけたのであった。

でも実際挨拶はしてみたものの、何を話せばいいかが解からない。なんせその頃僕はアメリカに来たばっかしで、何も解かっていない童(わらべ)だった。政治も経済も解からないし、大使って仕事をする人がどういう人かも解かっていなかった。別に地位で人間の価値が決まる訳ではないけれど、それにしたって大物相手には、それだけの価値のある話をするべきである。ところが僕は、何か質問しようと思っても、知識がないから難しい事は聞けなかったのである。

しかしここは話しかけた手前、「なんとかして話を盛り上げたい」って思うのが普通であろう。僕も必死になって、共通項を探そうとしていたのである。そして・・・。会話形式を用いよう。
 

雄一郎
あのう、大使はいつも何を食べているんですかぁ?
邦彦
えぇー、あのう、シャケなんか食べてます。
雄一郎
はぁ、シャケですか?美味しいですよね・・・
 
まったく阿呆としか言いようがない、低レベルな会話である。幼稚園で行なわれる、
先生
たけし君は何が好きかなぁ?
たけし
ハンバーグぅ!
 
という会話と同レベルじゃないだろうか?まったく今思い出しても恥ずかしい。しかしちゃんと答えてくれた大使は偉い!少し大使が身近に感じられた一瞬だった。
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