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かわいいぼうやについて

僕が小学校の低学年だった頃、学校の近所に「ぼうやかわいい!」と呼ぶと喜ぶ、変なおじさんがいた。おそらく桜の宮小学校の生徒全員が「かわいいぼうや」の存在を知っていたのだけれども、誰もその正体を知らなかった。「かわいいぼうや」がその近所に住んでいたのか、それとも浮浪者だったのかすら知らなかった。「かわいいぼうや」は毎日学校の周りを昼間からうろついていて、登下校する小学生を見つけたら近づいて行って、「ねえねえ、僕の事かわいいぼうやって言ってぇ」と話しかけて来るのだった。今から思うと滅茶苦茶変な、というか、かなりやばい奴だ。でもその頃の僕達は、喜んで「ぼうやかわいいー」って言って遊んでいた。

僕達は「かわいいぼうや」をからかって遊び、「かわいい」と言って「かわいいぼうや」を喜ばせた。「かわいいぼうや」は別に生徒に危害を与える訳ではなかったので、特別誰も気にしてはいなかったと思う。でも問題になったのは、「かわいいぼうや」が「かわいい」って言ってくれたガキどもにお金やおかしを配りだした事だった。たかが駄菓子を買うくらいの金額や、アメ玉一つぐらいづつだったらしいけれど(僕は残念ながら?そのチャンスがなかった)、それにしても学校としたら「むむむっ、これは問題のあるかわいいぼうやだぞ!」と思ったに違いない。

そしてある日の全校朝会で校長先生が言った。要約すると、「ええぇ、みなさん。かわいいぼうやを見かけても、かわいいと言ってはいけません。お金を貰ってもいけません。ついて行くなんて、もってのほかです。わかりましたね。」という事だった。

それから先「かわいいぼうや」を見かける事はなくなって、みんなはどこに行ったかを噂しあった。中には「かわいいぼうや、昨日車にひかれて死んだでぇ」っていう奴がいたりして、「かわいいぼうや」についての話は盛りに盛り上がったのだった。でもそのうちみんな、「かわいいぼうや」の事なんて忘れてしまった。

今から思うと、生徒に対する悪影響を考えた学校や自治会が、追っ払ってしまったんじゃないかなって思う。そして、「かわいいぼうや」は何だかとてもかわいそうな人だったのじゃないかな?とも思う。きっと家族や友達がいなかったか、たとえいたとしても、幸せな生活をしていた訳ではなかったのだろう。今ごろ「かわいいぼうや」はどうしているだろう?しかしそれにしても、何で急に「かわいいぼうや」の事なんかを思い出したんだ?

後日訂正
小学校以来の友達「あなお」から厳しいご指摘を頂きました。そうそう、学校の周りをうろついていたおじさんの名前は、「かわいいおじさん」じゃなくて「かわいいぼうや」でした。2/10/99 に書いた文章をちゃんと訂正しておきました。それにしても、やっぱり「かわいいぼうや」のインパクトは強かったんだなぁ。ちゃんと覚えている人がいました。
 

2/10/99
2/12/99

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