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犬に噛まれた思い出

僕が犬好きな事は、親しくしている人達ならみんな知っているだろう。暖かい季節の週末に近くのコーヒーショップに通う本当の理由は、そこに飼い主が連れて来る犬達であったりする。犬がハアハア言っているのを見ると、一緒になってハアハア言ってしまうし、犬が足をあげて何かをするときは、一緒になって足をあげたりする。一緒にシッポを振れないのが残念だけれど、代わりにお尻を振ったりする。

そんな僕だから、犬に対してそんなに警戒心がない。それは今に始まった事ではなくて、昔からそうである。ウーって言われても近づいてしまうし、ウフンって言われたら、勿論近づいてしまう。しかし犬にしてみたら「むむ、怪しいやつ」って思う事もあるらしく、その結果僕の手足には、合計4本の歯の痕がついてしまっているのである

最初に噛まれたのは、もう随分昔、僕が小学生の時だ。相手は近所に住んでいた馬鹿犬1号。そいつが綱から離れて道路を歩いていたのを、約10メートル離れた所から見かけた僕は、何を思ったのか「オイデオイデ」をしてしまったのだ。そしてその馬鹿犬1号は、お利口な事に僕の方にやってきた。しかも全速力で・・・。「うわぁぁぁ!!!」僕は全力で逃げたけれど、相手の方が速かった。

「ガブ!」
「ウギャ!」
「フンゴフンゴ」
「ウギャギャギャギャっ!!!。ビえー!!」
とまあこんな風に、僕は初体験をしたわけだ。まぁこれは僕がうかつにも「オイデオイデ」をしたから仕方がなかったのだけれども、それにしても噛むとは酷い事だった。これが最初の二本の歯の痕だ。

それから一年くらいたって、その時は噛まれはしなかったのだけれど、約100メートルに渡って犬に追いかけられた事がある。相手は近くに住んでいた馬鹿犬2号。その時僕は、近所のイタズラッコと一緒に遊んでいたのだけれど、いきなりその馬鹿犬2号が現われて、吠えながら追いかけてきたのだ。僕とイタズラッコは公園に逃げ込んだんだけれど、馬鹿犬2号はイタズラッコだけを追いかけて行ってしまった。僕は滑り台の上に逃げたのだけれど、イタズラッコは走り続けたからだ。ラッキーだった。ところでその後聞いたのだけれども、その馬鹿犬2号には、僕の父親も追いかけられた事があったらしい。親子でまったく何をやっているのだか・・・

さて、もう二本の歯の痕だけれど、これは隣の家の、いつも可愛がっていた犬に噛まれた。いつも通り「よーしよしよし、タロー、よーしよしよし」と頭を撫でていたのだけれども、いきなり

「ガブッ!」
「へ?」
「ガブガブガブガブゥ!」
「はぁ?」
「こ、こら、タローやめなさい!ごめんねぇ雄君。もう、タローったらどうしたの!」
「????」
その時はまともに噛まれたにもかかわらず、状況をつかむのに非常に時間がかかった。手には穴が見えるほど深く噛まれた痕が見えて、血が流れ出していた。まったく酷い事をしてくれた。

しかしだからと言って、僕は犬を嫌いになるって事はない。犬はかわいいし、気心知れた犬とだったら、本当に会話だってできるのだ。実際タローに噛まれたのは、もう8年くらい前の話だ。でもだからと言って、一緒にハアハア言ったり、一緒に足あげたりしてたら、そのうち「何やねんお前!」とか言ってまた噛まれてしまうかもしれない。
 

2/18/99

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