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ハーグ平和市民会議について

日本時間15日、朝日新聞のオンラインサービスである asahi.com によると、非政府組織(NGO)の呼びかけで、100ヵ国以上の1万人以上が参加してオランダのハーグで開かれていた「ハーグ平和市民会議」は、「21世紀の平和と正義のための課題」(ハーグ・アジェンダ)を採決、アナン国連事務総長に手渡し、4日間の日程を終えたそうだ。いくつか注目すべき事があるので、紹介してみようと思います。

一つ目は、このアジェンダに含まれる「公正な国際秩序のための基本10原則」という行動目標の第1項に、「日本の憲法9条を見習い、各国議会は自国政府に戦争をさせないための決議をすべきだ」という文章が盛り込まれた事だ。日本国憲法の第9条は戦争放棄を掲げている世界でも類を見ない憲法であるけれども、このハーグ平和市民会議ではそれが評価され、そしてそれを見習って、各国政府に平和な世の中の実現を働きかけて行こうという目標が立てられたわけだ。asahi.com が「日本国憲法の理念が世界の平和運動の共通の旗印として初めて全面に掲げられた」と伝えたように、これはとても素晴らしい事だと思う。戦争放棄の理念が世界の人々に認められた点で、世界の平和への大きな進歩だと思うし、太平洋戦争後の日本が歩んで来た平和追及の道が、間違っていなかった事を証明しているようで、日本人として嬉しい気がする。日本では憲法改正の論議が長い間続いているようだけれど、世界が認める素晴らしい平和憲法は守って欲しいと思う。

二つ目は、ハーグ平和市民会議はNGOが、つまり一般市民が呼びかけて開かれた会議であったという事と、その市民会議の結論は平和を求めているという事だ。まず、これだけ大きな会議を政府に頼らず開催し、成功を納めたNGOは素晴らしいと思う。そして、政府に頼らない一般市民が求めているものが、「平和」であることが注目できる。今行なわれているユーゴでの戦争も、元々セルビアの政府が組織的にアルバニア人を迫害し始めた事が発端であって、それに対してNATO加盟国が空爆を加えているわけだけれども、この戦争全ては政府がやっている事であって、一般市民は戦争を望んでいる訳ではないと思う。セルビア人も、アルバニア人も、アメリカ人も、イギリス人も、中国人も、日本人も、一般の市民は「平和」を求めているのだと思う。それがこの会議で証明された気がする。この会議の他でも、様々なNGOが地雷廃絶や、人権擁護、動物保護、環境保全などを求めて活動しているけれど、このような各国政府に頼らない一般市民の活動が、これから世の中を良くしていく事に大きな役割を果たすと思う。

三つ目は、この採択されたアジェンダが、国連事務総長に手渡された事と、そしてそれが18日からの政府間会議と11月の国連総会に提出される事だ。とにかく国連の無力さが目立って来ているけれど、このような平和を求める市民の会議では、国連が頼みの綱として依然支持されている事が注目できる。NATOはユーゴを国連での採決を待たずに空爆し、それをロシアや中国から国際法違反だと非難されているけれど、それはロシアや中国の訴えの方が正しいと思う。国連は非常に財政難らしいけれど、それは各国が分担金を滞納するからだそうだ。アメリカの滞納金は世界一多いそうだけれども、空爆や大統領のプライベートの裁判に金を使うぐらいなら、さっさと納めろと言いたい。市民が国連を支持しているのだとしたら、国も国連を支持してこそ民主主義だと思うけれど、違うだろうか?ちなみに余談になるけれど、アメリカの富豪、例えばマイクロソフトのビルゲイツなんかは、国が納める額以上の額を国連に寄付している。それはまたそれで、素晴らしい事だと思う。

ハーグ市民会議の基本提言に盛り込まれている内容で次に注目すべきは、国際刑事裁判所の設立を求めている事だと思う。国際紛争はそれらの当事国が勝手に自己の正当性を主張して譲らないから勃発して、最悪の場合戦争に陥るもの。それならば問題を、政治と分権した裁判所で国際法に照らし合わしながら裁いてしまおうという考えだ。これが実現すれば、武力行使という最悪の事態に陥る前に、平和的解決策が生まれてくると思う。

さらに注目すべきは、「経済上の権利」も重要な市民的権利として受け止めることが求められた事だ。世界には60億もの人が住んでいるけれど、一定の生活水準を満たした生活を送っているのは、ほんのひと握りだ。つまり現在「経済上の権利」が守られていない人たちが大勢いるという事だ。全てを平等にすることは不可能であるけれども、一定の豊かさを地球上の全ての人が持つ権利があるという意味で、「経済上の権利」が市民的権利として訴えられたのだろう。

他にも地雷禁止条約の推進や、平和教育の尊重など、どれも実現すれば素晴らしい世の中になるだろうと思われる事ばかりが提言されたようだ。世界は平和を求めている。そして戦争は馬鹿らしい。この二つが解かっているのに、それを実現する事ができないどころか、戦争で悲劇をもたらすような政府に頼らず、私たち一般市民が平和を求めて積極的に活動していくべき時が来ているのではないだろうかと思いました。
 

5/15/99

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